運送業における人事評価制度とはどのようなものが適しているのでしょうか?運送業における離職率の高さは長年課題として存在しています。
人事評価制度を取り入れ活発な組織への変革を実現するにはどうすればよいのか。ドライバーの人事評価制度の特徴、ポイントについて説明します。
運送業の業界動向と人手不足状態
日本における労働者不足は、どの業界にも共通した問題です。中でも運送業の人手不足は業種の特徴からも顕著であり、さらに慢性化しやすい側面があります。
人の移動を助け、生活に必要な物品を運搬するなど、重要な役割を担っている運送業は、私たちの暮らしに欠かせない存在です。ところが有効求人倍率を見ても、トラックドライバーを含む自動車運転の職業は、2013年からの6年間で2.15から3.78と急激に上昇しており、人手不足の加速が如実にあらわれています。
また厚生労働省が調査を行っている12の業種の労働者不足の割合は、2019年11月の調査で41%でしたが、運輸業・郵便業に関しては56%で、平均より15%も高い数値となっています。
全日本トラック協会の企業調査によると、2019年4〜6月期に人手不足と回答したのは28.5%、やや不足を含めると72.3%に達しており、約7割もの企業が人手不足に悩み、現場では悲鳴を上げる状態が続いていることがわかります。
運送業の人事制度の課題
では、なぜ運送業界は人手不足に陥っているのでしょうか?
そもそも人手不足を引き起こす原因となるのは、労働者の数によるところだけではありません。たとえ働き手が多くなくても、仕事の量に対して十分な数の就業者がいれば、仕事は完結していくはずです。ところが運送業では、働く人の数の少なさだけに留まらず、仕事量が増加の一途をたどっている状況です。つまり需要と供給のバランスが悪いのです。
そこには大手通販サイトをはじめとする、Eコマース市場の急成長で、宅配便の取扱数が増加したという背景があります。経済産業省によると、国内EC市場の物販は、2016年には15兆円を突破し、宅配便の取扱数は39.7億個となりました。
また荷物を受け取ったり納品するたびに発生する待ち時間の問題や、ドライバーを悩ませる再配達の問題などが、業務効率を悪化させていることも、忘れてはなりません。
さらに国土交通省で定められたトラック1台あたりの積載効率は41%と厳しく、荷室の半分以上を空けた状態で稼働しています。このような積載効率の悪い現状にあっても、消費者の細かな要望には応える必要があり、改善すべき課題となっています。
高齢化と若手人材の不足も挙げられます。ドライバーの約70%が40歳以上というデータもあるほど、運送業界は特に高齢化が進んでいると言われています。就業者のうち40〜55歳の占める割合が、全産業では34.1%であるのに対し、運送業では44.3%となっています。その上、29歳までの労働者比率は10%以下です。
市場拡大が確実と言われる中、年齢層のゆがみがこのまま続くと、人手不足はさらに深刻になると予想されます。
運送業の主な対象職種や業務内容
運送業と言えば一般的にドライバーをイメージすることが多いようですが、その職種はさまざまです。商品在庫を保管する倉庫での管理業務もそのひとつです。また人を運ぶことも運送業に含まれています。運賃を取って人を運ぶバスやタクシー、電車などは旅客輸送の代表的な仕事です。
各職種の業務内容と、一般的に持たれているイメージについて解説します。
【トラックドライバー】
<業務内容>
トラックドライバーは小型・中型・大型のトラックを運転し、配送、宅配、引っ越しなどの業務を行う職種です。所属企業によって扱う荷物、車両の積載量、必要な免許や資格、業務内容の範囲など異なります。
配送業務では配送センターや倉庫から出荷された商品を、小売店や購入者のもとへ運ぶのが主な仕事です。会社によって勤務形態も異なり、正社員、契約社員、アルバイトなどが存在します。大型自動車免許の保有が必須の場合もあります。
<職種へのイメージ>
・長距離を走ることもあり、車や運転が好きという気持ちを満たせる。
・移動中はほとんどの場合、1人でいられる。
・人間関係のストレスなどが比較的少ない職種である。
・固定給プラス、件数による別途報酬が出るなど、高収入を狙える職種である。
・求人応募の注意点として「仕事では会社所有の車両を使用するケースであっても、ガソリン代などが報酬に含まれていないか」をチェックポイントに挙げているサイトもある。
【倉庫管理】
<業務内容>
倉庫や配送センターで保管する商品の管理、入庫した商品の仕分け、商品の集荷や出荷といった作業をサポートする仕事です。業務内容の詳細は職場によって異なりますが、一般的にはコンテナで運び出した商品の仕分けをしたり、倉庫内での搬送、在庫管理・整理、棚卸表の作成などを担当します。フォークリフトの免許を取得していると業務の幅は広くなります。
<職種へのイメージ>
・商品の管理能力が身に付く。
・整理整頓能力や注意力が身に付く。
・取り扱う商品によって荷重も変わり、体力的に向き不向きがある。
・屋外の作業が中心とは言え、冷暖房設備は職場環境により異なる。
【旅客輸送】
<業務内容>
公共交通機関と呼ばれる分野です。無料送迎バスなどは該当しません。
タクシーの場合は、ナンバープレートは業務用の緑色のもので、運転するためには第2種免許が必要です。鉄道は1種、2種の区別がなく旅客列車の運転ができます。
旅客輸送をするには、他にも乗り物ごとの免許や研修が必要で、乗客とのやりとりなど、コミュニケーション能力も大切と言えます。
<職種へのイメージ>
・人の命を運ぶ責任のある仕事である。
・運転技術や安全に関する知識が問われる。
・運転中は1人なので人間関係にわずらわされる機会が少ない。
・その分、同僚やドライバー同士のコミュニケーションが楽しい。
ドライバーが配送業の厳しさを感じている点について
ドライバー(配送業)の仕事は、安全に留意し事故を起こさず、体力が伴えば年齢を問わず長く続けることができると言われます。では、ドライバー自身が現場で感じる仕事の厳しさはどこにあるのでしょう。
・時間厳守のプレッシャー
ドライバーの業務では、指定時間内に配送や宅配をすることが求められます。しかし渋滞や天候、事故などの予期せぬトラブルが起きることもあり、特定の場所に決められた時間までに届けるというストレスを抱えることになります。日々の状況判断を重ねながら、スケジュールをこなさなければならないプレッシャーがあります。
・肉体的な負担
ドライバーは、荷物の積み下ろし、長時間の運転、夜間業務などで、肉体的に負担が掛かる業務です。体力がなければ長く続けられないという面もあると言えます。また安全運転や安全な荷さばきが必要で、常にリスクに気を配らなければなりません。
・長時間勤務や不規則な生活
ドライバーの仕事は業務時間が長くなったり、決まった時間の食事がままならない不規則さを伴うことがあります。また、長距離トラックドライバーは夜間の走行や、トラック内での睡眠が必要で、トラック運転が好きな人でないと務まらない面があります。
運送業に人事評価制度を導入すべき理由
運送業務に関わる中で、楽しく仕事を続ける人もいれば、何らかの理由で続けられなくなる人もいます。
若年層が運送会社を辞める理由として「仕事の評価基準が不明瞭である」「評価されるために何をすればいいのか分からない」「上司に適正な評価をしてもらえない」などの不満も挙げられています。
評価項目には、仕事の成果を評価する「成果・業績評価」と、仕事に対する姿勢やプロセス、能力などを評価する「職務・プロセス評価」があります。
「成果・業績評価」では、重点テーマ目標達成率、コスト削減率、在庫精度向上などの仕事の結果を評価します。
「職務・プロセス評価」では、保有する技術や技能、知識、また仕事に対する取り組みといった仕事のプロセスを評価します。
適切に評価され、評価された内容がきちんと賃金に反映される。つまり、納得のいく評価体制があれば仕事へのモチベーションを保つことができます。ドライバーの賃金体系をいかに効果的に設計するかは重要なポイントで、深刻化する人手不足を解消するためにも知恵を絞りたいところです。
【ドライバーの賃金制度の一例】
業績給(使用燃料費・走行距離)×○○円
時間外手当
無事故手当
(車両事故:修繕費×○○%=自己負担)
運転業務に対するコストパフォーマンスを定量的に評価し、給与と連動させることで、優秀な社員のモチベーションアップにつなげることができます。
人手不足対策の一環として、勤務形態の多様化も見られるようになりました。これからは短時間の勤務でも、効率良く働いた社員を正しく評価する仕組みが求められます。また、運送会社は歩合制が一般的で、仕事の貢献度は直接歩合給として反映される形態を取る場合が多いようです。特に若年者の職場定着を目指す場合、仕事の質や量を正当に評価し、賃金に反映させることが大切です。
運送業の従業員が仕事を辞めない風土の構築
社員が離職しない運送会社には、経営管理に特徴があるようです。
①職場のルールが明確
・就業規則をはじめ社内規定が明示されている。
・業務への評価制度、教育制度が整備されている。
・先輩社員が有利な仕事を独占するなど、不公平な扱いがない。
・「報・連・相」が徹底している
・問題社員の放置による職場の悪循環を断ち切る
②不公平感がない仕組み
・仕事の成果や努力した過程が正しく評価される。
・「やってもやらなくても同じ」「勤続と時間だけで賃金が決まる」といった風土がない。
・個人の努力が正当に報酬化される。
③居心地のいい社風
・日常的に社員同士の挨拶がある。
・管理者や経営層が日頃から社員に声がけを行っている。
・仕事の成果を言葉にしてほめる職場風土がある。
・社内に「もっとがんばろう」という気風がある。
④経営者の姿勢
・経営者が社員に感謝している。
・経営者が社員の家族へ感謝を伝えることもある。
運送業の人事評価制度の特徴
慢性的な人手不足が問われ採用が困難と言われる運送業界には、モチベーションの高まる仕組みや、社員のがんばりが正当に評価される仕組みが必要です。現場で運用しやすく、運送会社の実態に即した評価基準を、誰もが理解しやすい言葉にして作成し、雇用の定着や採用につなげていきます。
たとえば、挨拶、服装、マナー、安全への取り組み、事故の有無、車両管理、指示事項の遵守などの基本項目です。また会社独自の理念に基づいた「行動」といった項目を設け、日頃から必要な基準をクリアできているかどうかをセルフチェックしていきます。
セルフチェックを採用する理由は、ドライバーは出庫すれば管理者の目が届かない業務を行っています。本人の自覚の有無が、仕事内容の良し悪しを決めると言ってもいいでしょう。日々の業務の効率化を図るためにも、普段の業務内容を見直し、より良い方法を吟味して行動できるドライバーの育成を目指します。
運送業ドライバーの自己評価 シンプル版
お客さまのために何ができるのかを考え実践するには、シンプルな目標設定を設けることも必要でしょう。
・急な欠勤はなかったか。
・遅刻はなかったか。
・大きな声で明るく挨拶ができているか。
・クレームや商品事故はなかったか。
・燃料や高速代などコスト削減ができているか。
・洗車などの車両管理はできているか。
・ミーティングや研修に出席したか。
・個人の車両事故はなかったか。
上記のように大事な項目に絞って回答を求め、それを点数化する方法もあります。
ドライバーとしての自覚を促すには、月に一度の本人評価を組み込むことが大切です。その自己評価を考慮し、管理者が検討した上で賃金に反映させます。積み上げた実績をさらに半期のボーナスに反映させます。評価を適切に報酬に結び付けていくことで成果や業績へのウエイトも大きくなり、ひとつひとつの仕事に責任を持つようになります。新人や経験年数の浅いドライバーが、仕事に取り組む際の姿勢に変化が見られるでしょう。
運送ドライバーの能力評価シート
会社が求める能力を現場でちゃんと発揮できているか、ドライバーがより詳細にチェックする評価シートの一例です。仕事上で起きた問題を把握し解決する具体的な行動、作業効率を考えた仕事の進め方、正確な伝達やコミュニケーション能力、接客対応などについて、行動例を挙げてチェックします。
【専門技術の発揮】
会社貢献につながる専門的な技術を十分に発揮できているかどうかを問うものです。
1:いつも冷静かつ的確な判断で安定した運転ができている。
2:事故が発生した場合も道路交通法などの知識を生かした対応ができる。
3:作業上の安全マニュアルを理解した行動が取れている。
【問題解決の行動】
1:荷主の要求に応じづらい場合の社内への報告、また対応ができる。
2:作業計画を定期的に見直し、仕事のムダを発見できる。
3:取り扱う商品の特性を理解した荷積みや配送ルートの提案や問題改善。
【迅速な伝達】
1:配達の状況や結果を荷主や上司に正しく伝えている。
2:連絡事項を把握し、正確に認識できている。
3:お客さまの依頼を簡潔に正しく社内に連絡、取り次ぎができている。
【効率的な仕事】
1:手の空いた時は運転以外の業務を行い、時間を有効に活用している。
2:最適なルートを使った最短時間の配達ができている。
3:仕事のコツをつかみ、優先順位を決めて効率的な作業を行っている。
【円滑なコミュニケーション】
1:定期的に情報交換を行い、社内の状況を理解した行動が取れる。
2:社内での円滑なコミュニケーションを意識し、人間関係を大切にできる。
3:社内で業務に関する相談や、情報交換をし合える協力者を作っている。
【接客サービス】
1:お客さまの立場に立った対応に努めている。
2:不愉快にさせない接客マナーを実践している。
3:クレームやトラブルがあっても落ち着いた判断で冷静な対応ができる。
まとめ
労働人口の減少や高齢化による慢性的な人材不足と、インターネット通販普及による業務量の増加で、運送業界は苦しい状況に立たされています。またサービスの質の向上を求められる一方、価格の値下げや原油価格の高騰などもあり、運送業を取り巻く環境は厳しくなっていると言えるでしょう。
人手不足が長期化すればするほど、既存の人材に負担がかかり、離職してしまう社員が増えるなど、さらなる悪循環が生まれます。
業務の効率化はもちろんのこと、単に雇用を増やすだけでなく、若者のやりがいを妨げない正当な評価で、働きがいを感じる方向を模索することが肝心です。今すぐ着手できる労働環境の改善や雇用の促進、長期就業につながる道筋を検討しましょう。
運送ドライバーの能力評価シートには、運転業務に対するコストパフォーマンスを定量的に評価し、ドライバーの意識を高め、ダイレクトに給与と連動させながら、優秀な社員のモチベーションアップにつなげる狙いがあります。