美容室の人事評価制度のポイントを解説。   3年で80%の離職率回避の切り札に。

美容室における人事評価制度とはどのようなものが適しているのでしょうか?

 

美容室では3年で80%が離職すると言われています。早期離脱を防ぐために人事評価制度を取り入れ、活気のある組織へと変革を実現する美容室も増えてきました。美容業界特有の人事評価制度の特徴、ポイントについて説明します。

 

美容室の人事評価制度の課題

近年、美容室の店舗数が増えています。厚生労働省の調査によれば、2017年には約25万件で、コンビニエンスストアの約5倍もの店舗数になっています。ところが、少子高齢化で美容室を頻繁に利用する年齢層2030代が少なくなり、年々、美容室あたりの顧客人口が減少しているので、経営が苦しい美容室もまた増えているのです。

 

さらに、美容室を選ぶときの基準に「手頃な料金が求められている」「店舗数が増えたことで地域内の競争が激化している」「低価格で営業しているクイックカットサービス店が進出している」といった理由で、客単価が下がっていることも経営を圧迫している要因です。

 

そのうえ美容室は、人材が集まらない・定着しないという問題も抱えています。経営が厳しいために固定給が抑えられ、売上や指名客数を伸ばさないと給料が上がらないという美容室は、よい人材が集まらず、美容師のやる気を引き出せません。

 

毎年約2万人が理美容師の免許を取得し、全国には約120万人もの免許取得者がいるにもかかわらず、実際に理美容師として働いているのは40%ほどといわれています。

その理由は、3年までに80%の美容師が就職した美容室を辞めていることにあります。人手不足の美容室は、長時間労働が慢性化するなど美容師ひとりにかかる負担が増えて離職に歯止めがかからなくなっています。

 

当然のことながら、美容師がいなければ美容室経営は成り立ちません。美容師が3年もたずに辞めてしまう状況ではいい人材が育たず、その都度、また新しい人を入れるとなると、技術の高い美容師を確保できないことになります。美容師の技術が低ければ、顧客を獲得することもできず、経営は依然、苦しいままになります。

 

このように、美容師の離職率をいかに抑えるかは、美容室経営の重要なポイントになっているといえます。納得のいく賃金、福利厚生の充実、労働環境の適正化など、早急に経営の見直しをするべきです。中でも、労働環境の改善というところでは、人を育てて共に成長する美容室であることが求められます。

 

美容室はサービス業なので、顧客をいかに獲得するかが業績に関わります。重要になるのはサービスの質ですが、美容技術はもちろん接客技術も必要です。美容技術も接客技術も、どうしたら顧客獲得につながるかを考えながら成長していけるように、人事評価制度を導入することが求められます。

 

美容室における人事評価制度導入すべき理由

美容師のスタイリングやカッティングなどの美容技術が高いと指名客がつきやすいので、美容室の売り上げに貢献していることが分かりやすく、指名手当てとして収入に反映できます。話術にたけるなど接客技術が高い美容師もまた、指名手当てがつきやすいといえます。美容技術が高く、接客技術も高いとさらにお店に貢献できます。

 

美容技術にしろ、接客技術にしろ、個人の能力によるところが大きく、優秀な美容師は引く手あまたです。美容室の増加で人材不足の昨今、こうした美容師の獲得は難しく、採用できた美容師の技術を上げることが求められます。その際に必要なのが、美容師のモチベーションを高める人事評価制度です。

 

従業員がどれだけ企業や店舗の売り上げに貢献できたかを評価する、成果主義による評価はある程度必要です。ですが、近年の人事評価制度で一般的に言えることは、働き方改革などで自分の生活を顧みずにひたすら成果を追求する時代ではなくなっているということです。

 

売り上げに見える形で直接結びつかなくとも、従業員の成長に対して評価をする人事評価制度が主流になっています。経営者が望む従業員の姿と従業員自身が目指すゴールを明確にして、双方が向かう先に利益アップや従業員のやりがいアップがあることが望ましい人事評価制度のあり方です。

 

美容業界でも、従業員である美容師の働くモチベーションがアップして、持てる能力を引き出せる人事評価制度の導入が急務になっています。自分の目標に向かって行く姿が経営者に認められ、それが給与に反映される仕組みが構築できれば、3年で80%といわれる美容師の離職率が改善されることにもつながります。

 

美容室の人事評価制度の特徴

一般的に、人事評価制度の目指すところは、「客観的に賃金などの待遇の基準を示す」「経営側の求める従業員の姿、方向性を示す」「従業員のやる気を評価してモチベーションを上げる」です。

 

「客観的に賃金などの待遇の基準を示す」というのは、美容室に雇用されている美容師の全員が納得できる職能ランクや、それに伴う賃金の基準を決めて開示することです。

たとえば、賞与は店舗売り上げの何パーセントであるとか、昇給がいくらであるかなどを、各美容師が納得できる職能ランクの基準を定めることが大切です。

 

賃金の基準については、従来通りに指名や物販による歩合制というのも、実際の売り上げに伴う賃金制度といえるのですが、それでは美容技術や接客技術の能力が高い特定の美容師だけが評価されることになりがちです。

美容技術にしても接客技術にしても、どのようなレベルであれば顧客獲得につながるのかが人事評価シートによって明らかになれば個々人の努力目標ができ、美容室全体の利益にアップにもつながります。

 

「経営側の求める従業員の姿、方向性を示す」というのは、美容室の風土ともいえる経営方針を定めて、この美容室にはどのような美容師を雇用していきたいかという理想像を人事評価シートの項目の中に盛り込むことです。

従業員である美容師からすれば、所属する美容室でどのような働きをすれば評価されるかが分かります。もちろんそこには、従業員がその評価軸を受け入れられるかどうかの判断もありますが、組織としては、従業員全員が同じ方向を向いて美容院の経営に共に力を尽くせるというメリットがあります。

 

「従業員のやる気を評価してモチベーションを上げる」については、先に挙げた項目が経営者側の示す方向性だとすれば、従業員側がどのような目標を持ってどのように努力しているかを評価するものです。

たとえば、新人教育や技術研修などで従業員の成長が見えた時にきちんと評価すれば、自分を見てくれていると感じてモチベーションが上がります。努力が必要な部分があれば、ちゃんと明らかにすることで、本人にやるべきことを提示できます。

 

提示された事柄に関して仕事のやり方が明確になるので、従業員の業務への取り組みが積極的になります。目標に向かって仕事している姿を評価してもらえる、ひいては賃金に反映されるとなれば、モチベーションは維持されて離職率が抑えられます。

 

美容室における人事評価シート

人事評価シートの基本項目は、「業績評価」「能力評価」「情意評価」に分類されます。美容師の「サービス」が商品となる美容室では、美容師の仕事ぶりがすぐに美容師の業績に反映するので、一般企業の人事評価シートの基本項目より、売り上げに関連したものが多くなります。

 

「業績評価」は、指名客をどれくらい担当したか、リピート客はついたか、どれだけ物販につなげられたか、クレームはなかったかなど、美容室側が設定した売り上げに対してどのくらい貢献したかの結果を評価する項目を立てます。自覚を持って取り組んでもらうためには、面談やこれまでの実績から美容師ひとり一人の目標を設定して達成率で評価する方法もあります。

 

人事評価シートの具体的内容としては、施術人数は何人だったか、指名された率はどれくらいだったか、売上目標は達成できたか、顧客単価・時間単価の目標に対してどれだけ達成できたか、リピート率やクレーム率はどうであったか、などを数値化できるように項目を設けます。

 

「能力評価」は、顧客のメリットになる知識や技術をどれだけ提供できたか、クレームが多い難しい顧客に気に入ってもらえる対応ができた、などの接客能力を評価するものです。いずれも、リピート客の獲得につながる美容室側にとっても大切な評価になります。個々人がどのくらい努力しているのかを評価しますが、実際に持っている知識や技術がお店で発揮されなければ評価できないので、積極性も必要になってきます。

 

人事評価シートの具体的内容としては、対応の難しい顧客からのクレームをうまく処理できた、髪質に悩んでいた顧客に適切なアドバイスができた、頭皮のトラブルで困っていた顧客に対応方法を提案できた、髪型に迷っていた顧客に満足してもらえる提案ができた、など日々の職場で実際に発生するケースで、どのように行動したかを細かく項目を立てます。

 

「情意評価」は、日頃の勤務態度や業務上の振る舞いなど、顧客に対する態度だけでなく、周りのスタッフに対する接し方などが評価されます。美容室は、美容師が独立して顧客を担当するシステムですが、同じ仕事場内では協力が必要な場面もあります。先輩美容師のサポートに入っているときに、先輩の指示に従って的確に業務を行えるかどうかも評価の対象になります。

 

また、「情意評価」に関しては、チーフをはじめスタッフすべてにおいて、人間関係をよくして職場環境を良好に保っているかどうかも、美容室にとって大切な要素になります。店舗スタッフの人数がそう多くない美容室が多い中、人間関係の悪化は離職につながりやすい要因です。ただでさえ、接客でストレスを感じやすい職場なので、チーフの気配りやスタッフ同士の助け合いは、経営側で評価の対象にするべき事項でしょう。

 

人事評価シートの具体的内容としては、顧客に対して誠意ある態度で接しているか、美容室の示している方向性を理解して実行できているか、チーフや先輩スタイリストの指示を理解してきちんと従っているか、チームワークを意識して業務を行っているか、スタッフのフォローができているかなど、顧客やスタッフに対する姿勢や振る舞いなどを細かく評価する項目を設定します。

 

このような人事評価制度の導入によって、個々人が美容室にどのようにどれだけ貢献しているかを客観的に評価することができます。また、美容師にとっても、どの項目の評価をどれだけ上げれば自分のキャリアアップにつながるかが見えます。

 

一般の企業は、いくつか違う業務の部署があって職場を異動することもできますが、専門職の集まりである美容室では、店長、チーフなど職能ランクでキャリアアップの方向がはっきりしています。

 

美容師にとってのキャリアアップとは、トップスタイリストになりたい、店長になりたい、実力を身に付けていつか独立したいなどです。所属する美容室でキャリアアップするにしても、いずれ独立するにしても、人事評価シートで示される評価は自己目標に近づくために現状の自分をどう近づけるかを考えて業務を行う指標になります。

 

美容室で人事評価制度を活用する方法

多くの美容室でミーティングを行っていると思いますが、それは店長やチーフからの一方的な決定事項の報告や顧客からのクレームのフィードバックだけになってはいないでしょうか?

上からの一方通行の押し付けでは、スタッフの心に響かないので、反感を買うことはあっても従業員の行動を変えることはできません。美容室内は、上下関係やスタッフ間で意見を言いやすい環境にしましょう。

 

本来ミーティングは、経営上の方向性を共有したり、スタッフからの意見・提案を聞く場として定期的に開くことが大切で、美容室内の人間関係を風通しのいいものにする上で欠かせない取り組みのひとつです。風通しがいい環境があればスムーズに人事評価制度を導入することができます。

 

すでにスタッフの間で、業務上の必要事項や美容室から求められていることへのコンセンサスが得られているのであれば、さらにスタッフ個々人に踏み込んだ人事評価制度の導入を提案してみましょう。その際、売り上げなどに関する数値以外、主に人事評価シートの「情意評価」について、個別面談でフィードバックをすることを前提としましょう。

 

面談では、店長やチーフから評価を開示しながら美容室が示す方向(評価軸)とスタッフが行うべきこと(行動指針)を確認していきます。いいことばかりではなく、本人にとっては耳の痛いことも言わなければいけませんが、そこで本人の抱えている悩みが明らかになって成長へのステップになることもあります。

 

人事評価制度の目的は、従業員を適切に評価して賃金管理をすることだけではありません。ましてや、減点評価形式にして賃金を抑える理由をつくるためのものではありません。個々人の能力や努力の姿勢をプラス評価して、従業員の成長を後押しし、質のいいサービスを生み出して美容室経営の向上につなげましょう。

 

まとめ

競争が激化し顧客単価が下がっている美容業界において、生き残るために必要なのは、売り物であるサービスを劣化させないことです。サービスの劣化とは美容技術や接客技術の劣化、すなわち、従業員である美容師の質の低下です。

 

美容室の収益の低下から、賃金の低下や長時間労働など職場環境の悪化が起き、せっかく採用しても3年も持たずに離職してしまう美容師が後を絶ちません。3年ごとに美容師が入れ替わるようでは、質の良いサービスを維持するのが難しくなります。そこで、美容師のモチベーションを上げて能力の向上を促すために、人事評価制度の導入は有効です。

 

近年、美容師志望の学生は、必ずしもトップスタイリストになりたいとか、自分の店を持ちたいなどのキャリアアップを求めていない傾向があるといいます。スタイリストにならず、アシスタントとして継続して働きたいと考える人もいるようです。旧来の考え方で、厳しく上を目指すことを強いても、仕事へのモチベーションとはならない場合もあるのです。

 

経営者は美容師の働き方の希望を把握して、個人の満足度を上げることで、離職率を下げることができます。

 

離職を防ぐためのポイントは、「従業員はそれぞれ違った成長を望んでいること」「結果だけでなく、過程を評価することが効果的であること」「経営側が希望する美容師像を掲げることで理想と現実を埋めることができ、従業員のモチベーションになること」が挙げられます。これらは、きめ細かい人事評価制度の構築で対応できます。